真駒内どうぶつ病院札幌市の真駒内にある動物病院(犬の病院)です

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犬に多い腫瘍

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▋ リンパ腫

リンパ腫とは、血液細胞の中のリンパ球が腫瘍化した「リンパ球のがん」であり、白血病などと類似した「血液のがん」に分類される病気です。限局した病変(しこり)を形成することもありますが(どこにでも発生しうる)、「全身性のがん」と認識して対応します。例外として、局所性のリンパ腫もありますが発生は少数です。
リンパ腫と診断される病変はすべて「がん」であることは確かですが、その「悪性度」には違いがあります。悪性度は、腫瘍細胞の大きさ(大細胞性 or 小細胞性)、形態(低分化型 or 高分化型)などによって判定され、高悪性度(High Grade)〜低悪性度(Low Grade)に分けられます。予後(病気の見通し)も治療も異なるため、悪性度の判定は非常に重要です。
近年では、犬でも様々なタイプのリンパ腫が存在することが分かっており、可能な限り(制限要因がない限り)、細胞診、病理検査、免疫染色などを併用して診断を行うことが推奨されています。

▶ 高悪性度(High Grade):大細胞性、低分化型
極めて進行が早く、無治療では数週から2カ月程度で致死的な病態に進行します。治療は抗がん剤の多剤併用化学療法が適応になります。重大な全身性のがんですが、化学療法により比較的高い確率で寛解が得られます。寛解とは外見上も検査上も健康と変わらない状態にまで治療効果が得られた状態をさし、寛解が得られれば質の高い延命が期待できます。しかし寛解という状態は完治とは異なり、常に再発の可能性があります。最初は治療反応がよくても次第に抵抗性となり得るため、ながい寛解期間を得るためには、寛解導入療法と地固め療法が大事です。
高悪性度(High Grade):大細胞性、低分化型
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細胞診所見 中型から大型のリンパ系細胞が多数みられる
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病理所見 確定診断と詳細分類は病理検査で行う
▶ 低悪性度(Low Grade):小細胞性、高分化型

進行は遅く、数カ月から数年の経過で緩徐に進行します。初期段階で発見した場合は、無治療で定期検査を実施し、治療開始の必要性を判断していきます。治療を開始する場合も、まずは内服薬のみで行う弱い治療を選択します。進行は緩徐ですが、治療で寛解が得られることはありません、症状を緩和することが目的の治療となります。治療と休薬を繰り返しながら、ながく管理ができる可能性が高いのが特徴です。診断時に低悪性度であった病態が後に、高悪性度(前述参照)に変化することもあります。

低悪性度・高分化型リンパ腫(Low Grade)歯垢と歯石(茶色の部分)がすべての歯に付着し、 歯肉が腫れてきています。治療が必要です。
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細胞診所見 小型から中型のリンパ系細胞が均一にみられる
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病理所見 確定診断と詳細分類は病理検査で行う
▶ 発生型
リンパ腫で最も多い発生型である「多中心型リンパ腫」では、体表リンパ節からはじまり、体腔内リンパ節、脾臓肝臓に浸潤し、最終的に骨髄まで浸潤します。2番目に多い消化器型リンパ腫では、腸や胃、腹腔内リンパ節からはじまり、全身にひろがります。その他、胸腔内から発生するもの、脾臓から発生するもの、皮膚から発生するもの、など様々な発生型がみられます。いずれも基本的には化学療法が治療の中心となりますが、臓器病変がある場合、部位や病態によっては緊急救命目的での手術を実施することもあります(穿孔病変、閉塞病変、出血病変などが存在する場合)。

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多中心型リンパ腫 皮膚型リンパ腫
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多中心型リンパ腫でよくみられる頚部の腫瘍
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皮膚型リンパ腫は慢性皮膚病と類似する
消化器型リンパ腫
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消化器型リンパ腫で生じた腸の穿孔
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消化器型リンパ腫で生じた腸閉塞
▶ 免疫表現型
リンパ腫の免疫表現型は、主にB細胞性とT細胞性に分かれます。その判定は、病理検査とあわせて行う免疫染色、あるいはクローナリティ検査によって行います。免疫表現型の判定は、悪性度や発生型とあわせて評価することで、リンパ腫のより細かい分類を可能にし、予後判定や治療方針の決定に役立ちます。
高悪性度(High Grade)のリンパ腫においては、B細胞性のほうが治療への反応が良く、T細胞性は予後が悪いということが分かっています。一方、低悪性度(Low Grade)のリンパ腫ではその逆で、T細胞性のほうが予後が良く生存期間がながいということが分かっています。

▋ 肥満細胞腫

肥満細胞腫は犬に発生する「がん」の1種で、皮膚や皮下に発生することが多く、体表に触る腫瘤(しこり)として発見されることが多いがんです。肥満細胞という免疫系の細胞が「がん」になった病気です(身体の肥満とは関係ありません)。肥満細胞はヒスタミンなどの細胞内物質を豊富に含み、それらが病変周囲および全身に悪影響を及ぼす腫瘍随伴症候群がみられます。肥満細胞腫の腫瘍随伴症候群では、病変周囲の炎症・疼痛・浮腫・止血異常、全身症状としては胃潰瘍による消化管出血や低血圧ショックなどを引き起こすこともあります。
肥満細胞腫の治療は、手術による切除が第1選択です。早期の手術で完治するタイプが多いため、手術の制限要因がなければ手術を実施します。悪性度にはバリエーションがあり、皮膚に発生する肥満細胞腫の場合、3段階に分類され(グレード1〜3)、グレード1は手術のみで完治しますが、グレード3は転移を免れません、グレード2は予測が難しく、1よりか3よりかで性質が異なります。病変の視診触診所見、進行速度、細胞診所見などで悪性度をある程度予測をすることは可能ですが、グレード評価は病理検査によってのみ判定可能なため、手術後切除病変を解析して判定します。また、手術は病変周囲の正常組織を含めて広く切除し、完全切除を目指します。完全切除が達成できたかどうかの評価も術後の病理検査で判定します。不完全切除であった場合でリンパ節転移などがなければ、通常は再手術が可能かを検討します。再手術が不可能でリンパ節転移などがない場合は放射線療法が適応となります(放射線療法は大学で実施)。悪性度とリンパ節転移の有無により、術後に抗がん剤や分子標的療法薬などの内科療法が必要となる場合もあります。また、はじめから完治が目指せないタイプでは、緩和ケアとして内科療法を選択する場合もあります。

肥満細胞腫の細胞診所見
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細胞質顆粒が豊富な典型例
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細胞質顆粒が乏しい未分化型(高悪性度を考慮)
肥満細胞腫
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よくみられる皮膚の肥満細胞腫
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肢に発生した肥満細胞腫
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随伴症候群を伴った高悪性度の肥満細胞腫

▋ 乳腺腫瘍

乳腺腫瘍は、早期避妊手術を受けていない雌犬に多く発生する腫瘍です。乳腺部に触る腫瘤(しこり)として発見される腫瘍です。犬の乳腺は腋窩から下腹部まで分布するため、広い範囲に単発あるいは多発性に発生します。犬の乳腺腫瘍は統計学的には、良性のものが50%、悪性ではあるものの転移率が低いものが25%、悪性でかつ転移率が高いものが25%というデータがあります。乳腺腫瘍の治療は手術で、他の治療は効果的なものがほとんどありませんが、そのかわり手術による完治を期待できるタイプが多いため、手術の実施がすすめられます。乳腺腫瘍の良性悪性の判定は、病理検査によってのみ判定可能なため、初期病変の場合、術前に予測することは困難ですが、50%程度が悪性であること、悪性であっても早期治療で完治の可能性が高いこと、良性の場合も長期に放置することで悪性転化がみられること、などの理由から、手術の制限要因がなければ切除し、摘出病変で病理検査を実施するのが合理的であると考えられます。ただし、炎症性乳癌といった予後不良タイプのがんが疑われる場合や、すでに肺転移などがある進行がんでは、手術不適応となることもあります。乳腺腫瘍の切除の際に避妊手術を併用するか否かについては、腫瘍の病態、年齢、併発疾患など様々な要素を加味して判断します。

乳腺腫瘍
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乳腺領域全体に多発した乳腺腫瘍
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単発の大きな乳腺腫瘍
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自壊した大きな乳腺腫瘍

▋ 肛門周囲腺由来の腫瘍

肛門周囲腺由来の腫瘍は去勢手術を受けていない雄犬に多く発生する腫瘍です。多くが肛門およびその周囲に腫瘤(しこり)を形成して発見されますが、尾や腹部の皮膚に病変がみられる場合もあります。肛門部には本腫瘍とは全く由来が異なる肛門嚢腺癌も発生しやすいため鑑別が必要です。肛門周囲腺由来の腫瘍は、表面が自壊しやすく、感染、悪臭、痛みが問題となることも多い腫瘍です。本腫瘍は良性比率が高いものの、良性悪性の判定を細胞診で行うことは容易ではないため、その判定は病理検査によって行います。未去勢雄に発生した典型例であれば、去勢手術を行うことで退縮する可能性があるため、通常は腫瘍の形態と細胞診所見から肛門周囲腺由来の腫瘍が疑われたら、まず去勢手術と病変部の生検病理を同時に行います、病変が自壊している場合は自壊部を含め切除生検しますが、いずれも肛門機能に影響を及ぼさない小さい範囲での切除を行います。病理結果が良性(肛門周囲腺腫)あるいは低悪性度(肛門周囲腺上皮腫)であれば、同時に行った去勢手術による効果で残存病変は退縮が期待できます。悪性(肛門周囲腺癌)であった場合、切除範囲を大きくする必要が出てきます。

肛門周囲腺由来の腫瘍
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肛門部の病変
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肛門部の大きな病変
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尾部の病変
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細胞診所見

▋ 精巣腫瘍

精巣腫瘍は去勢手術を受けていない雄犬に多く発生する腫瘍です。左右の精巣が陰嚢内にある場合は、大きさの左右差が生じ発見されます。去勢手術を受けていないにもかかわらず精巣の片側あるいは両側ともに陰嚢内に存在しない場合、潜在精巣(停留精巣)として鼠径部あるいは腹腔内に存在するものと考えられ、停留精巣の場合、陰嚢内の精巣に比較して腫瘍化する確率がより高くなります。精巣腫瘍が転移することは稀ですが、腫瘍の種類により骨髄不全(ホルモンの影響による)を引き起こすものもあるため、手術による摘出がすすめられます。精巣腫瘍の種類は摘出精巣の病理検査により判定します。精巣腫瘍のほとんどが手術により完治します。

精巣腫瘍
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精巣の片側腫大と反対側萎縮
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精巣腫瘍が原因の雌性化
潜在精巣の腫瘍
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超音波検査で腫瘍化した腹腔内潜在精巣を検出
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摘出した腹腔内潜在精巣の腫瘍

▋ 軟部組織肉腫

軟部組織肉腫は犬に発生する「がん」の1種で、体表に触る腫瘤(しこり)として発見されることの多いがんです。軟部組織肉腫という名称は、1種類のがんを指すのではなく、共通した性質を持ついくつかのがん(血管周皮腫、脂肪肉腫、線維肉腫など)をまとめてこのように呼ぶ、1つのグループ名です。このグループ共通の性質は、周囲組織に広く深く拡がりやすい(局所浸潤性が強い)ということです。その一方で転移はしにくいという性質も共通しています(悪性度による違いはあり)。軟部組織肉腫の治療は手術です。周囲組織に広く深く拡がりやすく、再発しやすいため、手術は病変周囲の正常組織も含めて広く切除し、完全切除を目指します。病変の悪性度や、完全切除を達成できたかどうかの評価は、病理検査で判定します。不完全切除であった場合は、まず再手術が可能かどうかを検討します。再手術が不可能な場合は、放射線療法が適応となります(放射線療法は大学病院で実施)。進行した病変や再発病変の治療は難しくなるため、初発時の早期発見と最初の手術がとても重要です。

軟部組織肉腫
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前肢肘部の病変
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後肢臀部の病変
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細胞診所見